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ヒトの甲状腺は、生きていくために無くてはならない体のエネルギー代謝を調節する甲状腺ホルモンを、食物(特に昆布などの海草類)中のヨウドから作り、血液中に放出しています。そこには、甲状腺ホルモンの産生異常、急性、亜急性、慢性の炎症、良性、悪性腫瘍など様々な病気があります。
発生学的にいえば、海の中の魚などは甲状腺様の組織が舌の付け根にあり、海水から直接ヨウドを取りこみ、甲状腺ホルモンを作ります。ヒトのように陸上で生活することが可能になった動物は、食物中のヨウドから甲状腺ホルモンを作ることができるように進化したためと考えられてます。ヒトの甲状腺は、胎生期に舌の付け根にできて、生まれる時には前頸部、喉仏(喉頭隆起)の下の甲状軟骨から気管にかけて、蝶々が左右に羽根を広げたような形で存在しています。前頸部に手を当てて、ごくんと唾を飲むと甲状軟骨と共に上下する甲状腺を触ることができます。
甲状腺ホルモンの産生分泌が過剰になっても、低下しても生きていくのに支障がでてきす。バセドウ病は、甲状腺機能亢進の典型例で、発熱、動悸がひどく、イライラ落ち着きがなくなり、手の指がこきざみにふるえたりします。どんどん痩せて、眼がらんらんとしてきて、甲状腺が腫れてきたり、眼球が入っている眼窩内に沈着物が増加して、眼球が突出してきます。ひどい時には精神症状や心不全を起こすこともあります。
血液中の甲状腺ホルモンを定期的にきちんと測定し、甲状腺ホルモン産生を抑さえる薬を投与することでコントロールすることになります。でも、薬でコントロールできなかったり、薬に対するアレルギー反応や血液成分(顆粒球)の減少を起こしたり、薬を使えない場合等には、甲状腺を切除する手術をすることがあります。逆に甲状腺機能が低下すると、どうもやる気がなくなり、倦怠感や手足の脱力感、腫れ(浮腫)が起こったり、太ってきます。未治療で放置しておくと心不全をおこすこともあります。機能亢進症と同様に、血液中の甲状腺ホルモンを定期的にきちんと測定し、甲状腺ホルモン剤の投与でコントロールします。
甲状腺の炎症には、急性、慢性とその中間の亜急性があります。急性、亜急性炎症の場合には、発熱、疼痛などの他に、炎症で甲状腺瀘胞(甲状腺ホルモンの貯蔵庫)が破壊されて、一時的に甲状腺ホルモンが過剰に流出し、機能亢進状態になります。炎症の消失とともに、元に戻ります。慢性の甲状腺炎は橋本病とよばれるもので、自分の甲状腺組織にリンパ球が反応し組織が破壊されホルモンの一時的な過剰となります。それが長期間続き、甲状腺組織の繊維化をおこすと甲状腺の腫大とホルモン産生低下が起こります。自己免疫疾患のひとつで、治ることはありませんが、多くはコントロールが可能です。稀に、悪性リンパ種が隠れていることがあるので、注意が必要です。橋本病で甲状腺の腫大と繊維化が著しい場合や癌の合併が疑われる場合には甲状腺摘出術を行なうことがあります。
甲状腺の腫瘍は意外に多いもので、癌検診や他の病気で耳鼻咽喉科に来られた時に見つかることがあります。小さな腫瘍であれば症状が無いことが多いのですが、頸部の腫大や物を飲み込むときの違和感、しわがれ声(嗄声)などを訴える方もいます。自覚症状がない時でも、頚部の触診や超音波(エコー)検査などで早期発見ができます。腫瘍の治療は手術的に摘出することです。大きさや進展度にもよりますが、熟達した頭頸部外科医にかかれば、多くはほとんど問題なく手術できます。良性腫瘍は、かなり大きくなるまで基本的には手術を必要としませんが、悪性腫瘍は小さくても頚部リンパ節、肺などに転移したり、反回神経を犯して声帯を固定するために嗄声が起こりますので、できるだけ早期に手術的に摘出したほうが無難です。手術は全身麻酔下で約1から1.5時間かかり、入院期間は約2週間です。早期であれば前頸部の切開創も小さくて済みます。悪性の中で一番多いのは乳頭癌、瀘胞癌、髄様癌の分化癌です。発育がゆっくりで、適切な治療が早期から行なわれていれば、天寿を全うできることが多い癌のひとつです。急速に増大し死亡する未分化癌や、分化癌が未分化するケースもあり、腫瘍があるのに長い間放置するのは考えものです。癌の治療は手術療法が基本です。腫瘍が左右どちらかに偏在していれば正常組織を含めて右葉または左葉を摘出(葉切除術)し、両方にあったり、中央にあれば全葉摘出(全摘出術)します。癌が周囲のリンパ節に転移したり、周囲に浸潤していれば、拡大した手術が必要となります。リンパ節に対しては、転移の程度によりますが、根こそぎとる根治的頸部郭清術が必要のことがあります。癌の浸潤に対しては、喉頭、気管、食道を合わせて取らなければならないことがあります。頚は気道である喉頭や気管、消化管である食道、脳への血行(左右頚動脈、頸静脈)、心臓のリズムをとる迷走神経、声帯を動かす反回神経、横隔膜を動かす横隔神経などの重要な物が狭い所にひしめき合っています。それらと接している甲状腺に腫瘍ができ、さらに、甲状腺の外に浸潤していれば、重要組織をできるだけ温存しながら、癌の根治を目指すのは、我々、頸部の手術に精通している頭頸部外科医にとっても、なかなか骨の折れることです。ですから、早期に見つけて早期に手術治療をするようにお勧めします。甲状腺癌の場合、脳や肺等に転移していても、甲状腺全摘出術の後にヨウドに放射活性を持たせた物を注射する放射線治療(内照射)ができます。いずれも手術後の定期的な経過観察が必要です。
熟達した触診はかなりの確率で病変を診断することができます。触診で甲状腺の全体の大きさ、硬さ、周囲との関係、腫瘍の有無や性状を詳しくとらえます。無痛で簡便な超音波(エコー)検査は、触診の補助検査としては非常に有効です。血液検査で、血中甲状腺ホルモン(T3,T4)、脳下垂体から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体など)、サイログロブリンなどを測定すれば、甲状腺機能の異常などは診断がつきます。腫瘍がどうゆうものであるかという質的診断にはCTスキャンやシンチグラムを用います。術前に悪性所見を調べる時には針による生検(FNAなど)をしますが、最終診断は手術摘出物の病理学的組織診断によります。
<おわりに>甲状腺の病気は遺伝することが多く、特に女性の方に多い傾向があります。甲状腺の腫瘍は女性に多いのですが、癌は男性に多いと言われています。私共、耳鼻咽喉科、頭頚部外科の専門医は、頭頸部領域の悪性腫瘍(上顎癌、舌癌、咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌、頸部食道癌など)の早期発見、治療に携わっていると同時に嚥下機能、発声機能についても深い関わりを持っています。そのため甲状腺癌の早期発見に努めるばかりでなく、頸部の生理的な機能を残しながら手術療法を含めた癌の根治的治療を目指しております。甲状腺癌は自覚症状に乏しい癌なので、一度、受診されてみてはいかががでしょう。ご不明の点があればご一報ください。
どうして物を食べて「美味しい」と感じるのでしょうか?世の中のグルメ、グルマンたちをうならせる料理は、たくさんありますが、それらに共通するのは、特徴ある歯ざわり、食感、舌触り、臭いであり、特別の味(味覚)であります。ひとの五感のなかで味覚と嗅覚は、化学物質によって刺激を受ける感覚という意味で、化覚感覚とよばれています。味がするのは、口の中に入った食べ物が唾液と混ざりあい、味の物質が溶け、舌、口蓋、咽頭後壁、喉頭蓋粘膜にある味を感ずる受容器、味蕾(みらい)を化学的に刺激するからです。そこで起こった刺激が脳幹を通って大脳皮質の味覚領に達してはじめて味として認識されます。味覚を生じる物質は基本的には可溶性であることが条件ですが、味の性質は様々です。基本の味は甘、塩、酸、苦味の4種類(4原味)ですが、これらの混合では表現できない味もたくさんあります、例えば、渋味、灰味、金属味、脂肪の味などです。旨味も4原味の混合で合成されるといわれていますが、感じる所は違うようです。ちなみに塩味は塩類によって引き起こされる味で、陽イオンと陰イオンの両方によりますが、強さはナトリウムイオンやカリウムイオンによってきまります。この陽イオンが味細胞膜のリン脂質親水基と結合することによって神経が刺激されます。酸味は酸類の水素イオンが同じように結合して刺激します。甘味は糖類で代表されますが、人工甘味料などたくさん知られています。これらは特別な蛋白質と結合して神経を刺激します。苦味を持つ物質は、アルカロイド、タンニン、ニトロ化合物、カフェインなどですが、水に溶けにくく、脂質に溶け、味細胞膜脂質の疎水性部位に吸着して神経を刺激します。舌の前は顔面神経の枝の鼓索神経、後ろは舌咽神経、口蓋は大錐体神経が支配しているので、それらの神経障害でも味覚は鈍くなります。味蕾の数は老齢になると赤ちゃんの1/2から1/3に減少すると言われていますが、味覚障害の原因はそれだけではありません。美味しいことはいいことです。原因によっては治ることもありますので、味がおかしかったり、味が鈍くなった時は、簡単にあきらめずにご相談下さい。
ヒトの唾液腺には、大唾液腺とよばれる耳の下にある左右の耳下腺、顎の下にある左右の顎下腺、下の舌のある舌下腺の五つがあります。小唾液腺と呼ばれる腺は口の中の粘膜にたくさん分布しています。唾液は、食べ物を飲み込み易くするための潤いと消化を助ける酵素を含んでいます。また、ある種のホルモン(パロチン)も含んでいます。きれいな唾液をたくさん出す赤ちゃんは元気がよいといわれるのはそのためです。唾液腺の炎症でよく聞くのは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)でしょう。ムンプスウイルスの感染によって起こり、発熱と大唾液線(主に耳下腺、たまに顎下腺)の腫脹を伴います。免疫能が低下していると髄膜炎になることもあります。また、聴神経を侵すと片方または両方の耳の聞こえが悪くなったり、全く聞こえなくなり、元に戻らなくなります(ムンプス難聴)。大人になってから罹(かか)ると男性では副睾丸炎、女性では卵巣炎をおこし不妊症の原因となります。急性化膿性の耳下腺炎では、痛み、発熱、耳下腺腫脹、発赤がおこり、強力な抗生物質の点滴が必要となることがあります。痛みを伴う耳下腺の腫脹を繰り返す反復性耳下腺炎という病気もあります。「”おたふく”を何回もする」という子供は、この病気のことが多く、専門医に相談してください。唾液の通る管の中に石(唾石)ができることもあります。主に顎下腺にできますが、極くまれに耳下腺にもできます。ごはんを食べた時や梅干しを想像しただけでも、顎の下が腫れ痛くなることがあります。石が出口(舌の下)に近ければ、口の中から、顎下腺に近ければ、顎の下から手術的にとることになります。唾液腺にも腫瘍ができます。良性腫瘍が多いのですが、悪性腫瘍もあります。耳下腺の中を顔の表情筋を動かす顔面神経が走っているので、腫瘍の増大や浸潤によって顔面神経麻痺を起こすことがあります。放置していると手遅れになることがありますが、顔の周辺で自分でもさわれるところですから、異常を発見できます。少しでもおかしければ、早めに専門医への受診をお勧めします。
普通の方で、24時間の総唾液量は1000ml 前後ですから、牛乳パック1本分の唾液を産生し、飲み込んでいることになります。唾液の構成は、水分の他にカリウム、ナトリウム、塩素、カルシウム、マグネシウム、尿素、尿酸などのほかに、主に耳下腺からでる消化酵素アミラーゼ、グリコプロテインなどが含まれています。また、ウイルスを中和させる免疫グロブリンの一種であるIgA や抗細菌作用を持つ酵素ライソゾームも含まれています。唾液の分泌量は、シェーグレン病、唾石、放射線治療や種々の薬剤で減少します。逆に、パーキンソン病や妊娠では増加します。唾液が出なくなる病気の代表であるシェーグレン病について、もう少しお話しましょう。シェーグレンという人が、反復性耳下腺炎、角結膜炎、口腔内乾燥症を3主症状として報告した病気で、自己免疫疾患と考えられています。自分の唾液腺に自分のリンパ球が反応して炎症を起こし、唾液産生細胞を壊し、その結果、唾液腺の線維化を起こしてしまいます。そうなると、唾液が作れなくなり、口が乾いてきます。同じような反応が涙腺にも起こり涙もでなくなります。人によってはリウマチ熱、S.L.E.、甲状腺の橋本病、多発筋炎、結節性動脈炎などを合併することがあります。診断は、唾液や涙の分泌量を測り、唾液腺に像影剤を入れ、典型的な像を確認します。確定診断は、唇の裏から組織(小唾液腺)を一部取って病理組織学にリンパ球の浸潤を確認します。治療は、口内の清潔を保持し、眼や口の乾きを対症的に抑さえる治療になります。進行が速い時は、ステロイドや免疫抑制剤を使うときもあります。治るという病気ではないので、出来るだけ進行を遅らせ、楽な状態をできるだけ継続させることに主眼を置きます。他の自己免疫疾患の合併をできるだけ早く調べておくことも必要です。唾液が出ないと食べるものが美味しくありません。食欲も無くなり、精神的にも落ち込んできます。高齢になれば普通の人でも唾液の分泌量が減少してきますが、その他の原因もありますので、口が乾いて治らないときには、一度ご相談下さい。
唾石というのは唾液腺の中や唾液の排泄管の中にできる石のことです。ヒトの身体の中で、分泌液を産生している腺組織やそれを貯めたりする臓器に石ができます。例えば、胆汁による胆石や肝内結石、膵臓にできる膵臓結石、尿のよってできる腎盂結石、尿管結石、膀胱結石などがあげられます。それぞれに共通するのは、分泌液中に核となるものがあり、分泌物の停滞が起こったときに石を形成し始めるということです。石は周囲の炎症を引き起こし、疼痛、発熱などの症状を出現させます。体外に排泄されると症状は軽快することが多いようです。さて、唾石はどうでしょう。唾液腺の中で顎下腺に多く出現しますが、極く希に耳下腺にも見られることがあります。他の結石と同じように、唾液(分泌液)中ででき始めます。組成は脱落した上皮、異物、放線菌などが核となり、リン酸石灰が沈着した石が排泄管内に形成されます。排泄管内、腺との移行部、腺部にあるものによって、それぞれ、管内唾石、移行部唾石、腺内唾石と分けられます。成人に多くみられますが、子供でもできることがあります。顎下腺の排泄管のことをワルトン氏管と呼びますが、唾石はこの管中を移動することがあります。唾液の出口は、舌の裏側、下の前歯のすぐ後ろに左右ひとつづつありますが、針先くらいの細い穴です。砂粒のような大きさでも、この出口を塞ぐと唾液の停滞を引き起こし、顎下腺が腫れて、痛みを生じます。石が外へでたり、管腔内を移動して後ろに行けば、症状がなくなります。石が大きくなると管腔を塞ぐようになり同じような症状を起こしますが、石が動けなくなると症状は持続します。すると感染をおこすことになり、唾液の出口からは膿がでるようになり、いやな味がすることもあります。発熱することもあり、舌が動かしづらくなったり、口が大きく開けられなくなったりします。ひどくなると、舌の下(口腔底)が赤くぱんぱんに腫れてきます。治療は、出口の近くであれば、口腔底を切開し、ワルトン氏管を開き、石を取りだします(口内法)。また、顎下腺側にあれば、顎の下を切開し、顎下腺もろとも石を取る手術が必要になります(外切開法)。顎の下がよく腫れる方は、唾石のこともありますので、一度、診察にいらして下さい。
唾液腺腫瘍の80%は耳下腺に発生し、残りが他の唾液腺に発生します。耳下腺腫瘍の特徴は、非常に多彩な組織像を示すことで、良性にしろ悪性にしろ病理学的な診断が難しい腫瘍に含まれます。良性腫瘍では、唾液腺組織由来の多形性腺腫が一番多いのですが、多形性と名がつくように色々な組織像があります。悪性では、唾液腺組織由来の多形性腺腫内癌や粘表皮様癌などがあります。その他にも、血管、リンパ、神経、線維など多くの組織由来の腫瘍ができます。腫瘍が外から触りやすいので、自覚したり、他人に指摘されたりしますが、疼痛などがないために長く放置されていることもあります。悪性では耳下腺の中を走行している顔面神経が犯され、顔面神経麻痺がおこります。顔の表情筋を支配している神経なので、麻痺すると額に皺がよらず、まぶたが閉じられず、口が閉じられなくなります。こうなると驚いて、病院に来る方が多いのですが、中にはそのままで、腫瘍が顔と同じくらいの大きさになるまで病院に来ない方もいます。治療は手術療法が基本ですが、顔面神経などがあるので、できるだけ再手術を避ける治療方針をたてるべきです。腫瘍の性質状、止む終えず顔面神経を切断することもあり、その後の顔面神経の再建が必要となることもあります。腫瘍が進展し、周囲の組織に浸潤(はいりこんでいくこと)すると、手術も拡大しなければなりません。頚の筋肉もろともリンパ節を根こそぎ取る手術(根治的頸部郭清術)や下顎の骨を切り取ってしまったり、頭の底の骨を通り越して頭の中まで手術(頭蓋底手術)しなければならないこともあります。どこにできた腫瘍でも同じですが、できるだけ早期に治療を開始したほうがよいのはあたりまえです。特に、頚から上の腫瘍では、切除する範囲が限られますので、治療する方としてはできるだけ小さなうちに見つけて、治してしまう治療(根治治療)にもっていきたいと考えています。顔を洗った後に、耳の下や顎の下を一度触ってみてください。変だなと思ったら早いうちに診察にいらして下さい。
節分に豆まきをした後、食べれば良いのですが、いたずらっ子の中には鼻や耳の穴に豆を入れてみたくなる子もいます。耳の穴(外耳道)に物が入っていると、聞こえが少し悪くなったり、ごそごそ動く音が聞こえたりします。丸いものはなかなか取れず、困り果てて大人に泣き付くことになります。でも鼻に異物が長期間あると感染を起こして、臭い黄緑色の鼻汁が出てきて、初めて、親が気づくことになります。豆は長時間経つと粘液を吸って大きく膨らむので、さらに取りづらくなります。小さい子では叱られるのがこわくて自分の口から何かを入れたことはなかなか言わないものです。風邪もひいてもいないのに、鼻から黄緑色の鼻汁をたらしていたら鼻の異物を疑いましょう。食べ物以外でも、子供は耳や鼻の小さな穴に物を入れたがります。手近なものではテイシュペーパーや紙で、おもちゃのビーズやピストルの弾などのプラスチック製品もあります。鼻のアレルギーがある子は鼻や耳がかゆいので、いつも気になり、物を入れる動機になることもあります。子供の小さな耳や鼻の中から、周囲を傷つけずに、プラスチックの玉などのつるつる滑る異物を取りだすのは至難の技で、かなりの経験と技術が必要です。どうしても患者さんが動くときは、麻酔をかけて取ることもあります。大人も耳の中にマッチの棒や耳かき棒、綿棒の先などが折れて残ってしまうことがあります。たまに見ることがあるのは、山菜取りに山に入った後どうも耳がおかしいと訴えて来る人の中に、ダニが外耳道に入っていることがあります。血を吸ったダニが耳の穴の中いっぱいに膨らんで、なかなか取れません。無理に取って、口が残ると感染を起こしますので、慎重にかつ完全に取らなければなりません。他に蛾や蚊、ゆきむしなどが入ることもあります。くれぐれも素人が取ろうと無理をしないでください。鼓膜などを傷つけて取り返しがつかないことになります。また、虫などは鼓膜の近くで必死にもがきますから、高周波の羽の音が直接伝わり聴力障害を起こすこともあります。異物を疑ったら、無理に取ろうとせずに、速やかに耳鼻咽喉科専門医にご相談ください。
咽喉(のど)、食道の異物で一番多いのは、魚の骨です。誰でも一度は骨を咽喉にひっかけて四苦八苦した経験を持っていることでしょう。ごはんのまるのみなどで取れればよいのですが、だめなときは要注意です。特に咽頭反射が強く、すぐゲーツとなる人は、異物を取るほうにとってもやっかいです。子供は大きな口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)に引っ掛かることが多いのですが、大人はどこにでも引っ掛けます。特に、総入れ歯(義歯)を入れている人は歯根感覚がなくなるために、自分の噛んでいるものの大きさや硬さが分からず、飲み込んでしまってから骨があったと気付くことが多いようです。タイ、コイ、ソイ、カレイなどの硬骨魚類の骨が多いのですが、ニシンやウナギのこ骨も頻繁に経験します。「たかが骨ぐらい」と甘くみてはいけません。咽喉の下の方(下咽頭)や食道に引っ掛かった時、食道の筋層が薄いので大きな骨(例えばカレイの顎骨)はすぐ食道壁を突き破ってしまうので、全身麻酔をかけて慎重に取らなければなりません。食道の外に出てしまうと縦隔内異物になり、放置すれば縦隔炎を起し死亡することもあります。また、不適切な方法で無理に取ろうとすると、骨で食道を縦に引き割いたり、周囲の組織(血管や神経)の損傷を起こすので十分な注意が必要です。基本的には、口の中から食道直達鏡で熟練した術者が、適切な診断の元に適切な手術を行うべきでしょう。空間が保持できる場所であれば内視鏡で摘出することもあります。口からは無理と判断すれば、頸部を外から切って、大切な神経や血管を避けながら食道へ達し、食道を開いて異物を取り除き、再び縫合しなければならないこともあります。どんな物でも(針やガラスなどでも)胃まで落ちればほとんどが便とともに排泄されますが、幼い子供では、何でも飲み込んで咽喉(または食道)につまらせます。針や安全ピン、おもちゃや硬貨などが多いようです。老人では、正月にはおもちを詰まらせたり、おもちと一緒に入れ歯を飲み込んで詰まらせる人もいます。あわてずに飲み物、食べ物をいっさい与えず速やかに救急病院か耳鼻咽喉科・気管食道科の専門医に診てもらってください。
今回は気道、特に喉頭、気管の異物についてお話します。どちらも正常に物を飲み込める時には起きませんが、ちょっとした拍子にむせたり、せき込んだり、息を吸い込んだりした時に起こります。普通はむせても、気道粘膜の咳反射によって吹き出されるので大事には至らないことが多いものです。でも、喉頭、特に声門(声を出す声帯があるところ)は、気道の中で一番狭くなっているため物が挟まると気道閉塞(窒息)が起こり、死に至ります。正月にもちをのどに詰まらせて亡くなる人は、この典型例です。噛み切れない、ねばねばしたつきたてのおもちを、総入れ歯で飲み込むのに時間がかかるようになってきたお年寄りに食べさせるのは、非常に危険です。事が起こったらすぐ取り出せるように、家族の人が側に居て、おもちを小さくちぎって少しずつ食べてもらいたいものです。声門より下を気管、それが左右の肺に分かれてからを気管支といいます。声門より大きな物は気管・気管支には侵入しませんが、入り込んで声門から外へ出なければ異物となってしまいます。年代的には15歳以下の小児に多く(75%以上)、乳幼児に一番多いようです。口いっぱいお菓子などを頬張っていて、笑ったり、泣いたり、転んだりした時に、ほんの少しが気道に入り、気道異物となることがあります。プラスチックのおもちゃ、釘や歯科用器具(ドリルの先端、歯冠など)、珍しい物では毛蟹の殻なども気道異物になります。一番多くて性質が悪いのは、ピーナッツ、枝豆などの豆類、お菓子類で、時間が経つにつれ、溶けてどろどろになり、浸透圧が高いため周囲に炎症を起こし、異物による病変が肺の奥へ奥へと進んでいきます。そのため、治りにくい肺炎を起こし、遂には、膿胸になり亡くなることも多く、気道異物は死に至ることがある重要な疾患なのです。小さいお子さんがいる親御さんは、物を食べていて、その後、少し咳(からせき)をするようになってきたら要注意です。一度胸のX線写真を取ってもらい、気道異物が疑われたら迷わず経験豊かな耳鼻咽喉科医または気管食道科医に診せてください。
突然、片方、極く稀に両方の顔面神経が麻痺する疾患。早期に適切な治療により回復する症例があるが、永久に麻痺が残る症例もある。眼が閉じられない、涙が出る、口から水物が流れる、味を感じない、顔に力が入らないなどの症状があれば、暖かいタオルで麻痺側をマッサージしながら速やかに耳鼻咽喉科専門医においで下さい。
のどの炎症などで腫脹することが多いが、悪性腫瘍の転移、悪性リンパ腫などのこともあるので、頚にぐりぐりができたら、一度耳鼻咽喉科専門医に見せるようにしてください。
頭頚部領域の腫瘍の自覚症状 頭頚部領域(頚から上で脳外科、眼科の領域を除く部位)の腫瘍(できもの)についてお話しします。腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があります。良性腫瘍は、それ自体では悪さをしません。一方、悪性腫瘍は自分の細胞が止めどなく分裂を繰り返すようになったもので”癌”とよばれるものです。放置すると身体全体が癌に置き変わり、生命を縮めてしまいます。誰でも体の中で細胞分裂を起こしているところでは、癌遺伝子が出たり消えたりしています。何かの引き金でその細胞が癌化すると細胞増殖が始まるわけです。引き金となる誘因は、煙草のけむりや科学物質などの慢性の刺激が加わるものといわれています。舌癌では虫歯も関係があります。体の免疫能が活性化されているとある種類のTリンパ球が、癌化した細胞を認識して殺してしまいます。どんな癌でも初期、つまり細胞数が少ないうちに治療を開始すれば、根絶できることが多いのです。それが早期診断早期治療が叫ばれる所以です。歴史的にいえば、20年前までは北海道に頭頚部外科を専門にしている耳鼻咽喉科医が少なかったために、頭頚部癌の早期発見が遅れていたのは否めません。また、一般の方々も認識があまりなかったのかもしれません。たまたま他の症状で受診して、癌を見る眼を持っている医師に当たれば、癌が発見され治療を開始できることがあります。これは非常に幸運なことです。癌は、ある程度大きくなってくると自覚症状がでてきますが、痛くもかゆくもないのが普通です。かなりひどくなるまで放置してから受診するために、おおがかりな手術をしなければならなくなります。生命を助けるための手術で、眼を失ったり、顔の半分や舌、咽喉がなくなったり、手術前とは違った不自由なことがたくさん起こります。早期発見のためにも、「おかしい」と思ったらできるだけ早めの受診をお勧めします。 <鼻・副鼻腔の悪性腫瘍> 解剖学的には鼻の穴から、のどに抜けるところまでを固有鼻腔(こゆうびくう)とよびます。顔の骨に囲まれていて、いわゆる”蓄膿症(ちくのうしょう)”(副鼻腔炎が正しいのですが)になるところを副鼻腔(ふくびうくう)とよびます。一番多い癌は、粘膜を構成している扁平上皮からでてくる扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)です。周りの骨を壊してあらゆる方向へ大きくなっていくので様々な症状をおこしてきます。前回も話しましたが、極く初期には全くといっていいほど症状のないことが多く、ある程度の大きさになって初めて症状を現します。早めに気が付いてきちんと治療を開始できれば治る人が多いので、まず固有鼻腔の癌の早期発見に役立つ自覚症状について紹介します。
副鼻腔炎(ふくびくうえん いわゆる蓄膿症)と同じような症状のことがあるので、片方だけ異常があるときは要注意です。
などです。 できるだけ早く症状に気付いて、早目に受診をするように心掛けてください。症状には気が付いていても、暇になる冬になってから病院に行こうと考えていると、その間に腫瘍は確実に大きくなります。癌は先手必勝です。症状に気づいたら、即、専門医の診察を受けてください。
口の中は歯、舌、つば(唾液)の出口などがあります。歯(歯列)、はぐき(歯肉)は歯科、口腔外科の歯科医師の先生方の守備範囲です。それ以外は医師である私どもが受け持つことになります。口の中からは粘膜や唾液腺組織から発生する癌が多く、腫瘍が小さなうちにはほとんど症状がありません。痛みがなくとも口の中の変化は見てわかることがあります。
(のどちんこ(口蓋垂)の上奥、つまり鼻の突き当たりでアデノイド(扁桃と同じ組織)や耳とつながる耳管がある所)
(のどちんこ(口蓋垂)の上奥、つまり鼻の突き当たりでアデノイド(扁桃と同じ組織)や耳とつながる耳管がある所)
喉頭は、呼吸の道であり、声を出すところであり、物をのみこむ(嚥下)時に気道をふさぐ重要な部分です。声帯部分では一番気道が狭くなっているので、腫瘍が小さくても症状がでやすく、早期に発見されることがあります。